大倉和親の人柄PERSONALITY

PART 5 清潔で端正なジェントルマン

「服は着る者の人柄を表す」と言います。機能性を重視するのか、TPOを優先するのか、はたまた少し奇抜な格好で印象を強めるのか。着る服には多少なりともその人の価値観が反映されているものです。

複数の企業で経営者を務めた和親は、その職務にふさわしい上品な服装を好んでいたようです。和親は19歳で渡米し、陶器の研究のためヨーロッパに何度も足を運んでいました。ゆえに本場の洋装に精通し、こだわりがあったのでしょう。今日に残る写真のなかで、和親は端正で品の良いスーツに身を包んでいます。

周囲の人たちからも「とても洗練された紳士だった」と評判でした。「仕立てのよいスモーキングジャケットを着こなしていた」など、口々に和親の服装をほめそやしています。

日本碍子の常務取締役だった岩尾舜三氏も、新入社員時代に和親の前に立った時のことを次のように振り返っています。「一部の隙もない英国風のスタイル、善意と温情あふれんばかりの慈顔、澄み切った闘魂を秘めた眼」。この時、和親は60歳前後。幾多の経営難を乗り越え、自信と品格に満ちた姿が想像できます。

身なりへのこだわりは社員に対しても向けられました。「人というものはつねに服装・容姿を整えていなければならない。何も高価な服装はいらないが、つねにブラシをかけ、ズボンは毎晩折り目をつけ、頭髪に櫛を入れ、髭は毎朝剃るように」と繰り返し伝えています。きちんとした身なりと清潔感を大切にしていた、和親ならではの言葉といえるでしょう。

また何事にもきっちりしていないと気が済まない和親の性分は、服装にも表れていました。自身のネクタイは常にまっすぐで、さらに部下のネクタイが曲がっていると、手を添えて直したそうです。

一部の隙もない身なりを心がけていた和親。その姿勢は、生み出した数々の製品にも反映されているのではないでしょうか。